003 ゴンドラの唄

慶応義塾大学経済学部教授で第一生命が設立したライフデザイン研究所の所長である加藤寛先生は、PHP研究所(1988)『わが心の詩』で、ご自身のその一節によって、心が慰められ、あるいは勇気づけられる詩として、吉井勇作「ゴンドラの唄」を選ばれていました。

 

いのち短し 恋せよ乙女

紅き唇 あせぬ間に

熱き血潮の 冷えぬ間に

明日の月日は ないものを

 

いのち短し 恋せよ乙女

いざ手をとりて かの船に

いざ燃ゆる頬を 君が頬に

ここには誰も 来ぬものを

 

いのち短し 恋せよ乙女

黒髪の色 あせぬ間に

こころのほのお 消えぬ間に

今日はふたたび 来ぬものを

 

先生は『わが心の詩』にこの詩を選ばれた理由として、

「『詩』が心に残るのは、その時々のできごとと深く結びついているのは当然だが、戦時から戦後へと、戦争と平和を体験した私たちの世代には何となく一つの体験から来る意識がある。それは、『今』は私たちにとって、生き残りの余生だということである。そして人生は生きている限り、精一杯やっておこうという諦観である。

他人はあるいは、それを青臭い禅坊主の悟りだというかもしれない。はたまたそれを刹那主義というかもしれない。しかし本人は至ってまじめである。生きているうちに何かを残しておきたい。死を前にして後悔はしまい。

そんな心を、映画『生きる』の中で志村喬が口ずさんだ『いのち短し恋せよ乙女、、、、』

真夜中、公園のブランコで揺られながら、癌と知ったおのが命を燃え尽くすまで、地を這うごとき低い声で歌い続ける、一サラリーマンの切々たる哀感。これこそわが心の詩」と言われています。

 

ベストセラー作家の楠木新氏も、著書『定年前』で黒澤明監督の映画「生きる」の一場面での「ゴンドラの唄」を人生後半戦が勝負の引用として

「極端に言えば、死に向き合わないと、本当の意味での老いや死に至る準備はできないと言えるかもしれない。人生後半戦の準備の重要なポイントであるのは言うまでもない」と紹介されています。

 

「ゴンドラの唄」には、我々がライフデザインを考えるうえでの大いなるヒントが隠されているのかもしれません。

 

Office Life Design

代表  岡  靖弘